1. HOME
  2. 中国 【電力】

中国
【電力】

長江デルタの電力危機 電力不足ではなく石炭不足が真因 (08/08/07)
2008/8/7
中国【電力】

 夏季の電力使用ピークを迎えて、長江デルタ各地の電力使用負荷は過去最高記録を更新し、一部電力企業は計画停電を余儀なくされている。今夏の電力危機のキーワードは「石炭危機」。石炭の供給が需要に追いつかず、価格は暴騰している上、輸送がネックとなり、そのため、エネルギーを他の地区に依存する長江デルタ地区で、電力危機が激化しているのである。

深刻化する長江デルタの電力危機

 上海市の電力使用負荷は昨年夏よりも1割多い2,350万kWに達している。ここ何日かの猛暑の中、動員可能な発電ユニットはいずれもフル運転を行なっているが、ピークシフトや計画停電等の調整措置が取られている。

 浙江電力公司は、夏季のピークに最高電力使用負荷が3,600〜3,700万kWになるとの予想を立てており、ピーク時の電力不足は最大300万kWに上ると見られる。一部の県や市では計画停電を実施する公算が大きい。

 江蘇省電力公司によると、同省の最高電力使用負荷は昨年より500万kW多い5,000〜5,300万kWになる。石炭供給は比較的安定しているが、天然ガス供給量が著しく減少しており、夏季の電力供給には不確実性が高い。猛暑が続き、冷房用の電力需要が増えると電力供給はさらに厳しい状況になる。

電力危機の真因は石炭不足

 今年の電力危機は、発電設備容量の不足に起因する2004年の電力危機とは様相が異なる。発電用石炭の高騰、石炭供給の不足、輸送のネックこそが電力供給に困難をもたらす主犯であり、「電力危機」ではなく「石炭危機」なのである。

 長江デルタ地区はエネルギーの大消費地であるが、エネルギー供給の多くは他の地区に依存している。上海の一次エネルギーはそのすべてが、浙江省の一次エネルギーは95%が他の省から調達される。江蘇省の石炭自給率も25%前後に過ぎない。

 一方、石炭供給の逼迫によって石炭価格が高騰し、5,500kcal標準炭の寧波港CIF価格はすでに1,200元/tを超えている。浙江省は発電企業に対し採算を度外視して夏季の電力供給を確保するよう要請しているが、全省の発電用石炭備蓄は6日分程度に落ちている。中小発電所の赤字は深刻化し、今年6月に発展改革委員会は電力価格を値上げしたものの、暴騰する石炭価格には追いつかず、高騰するコストを消化できない発電企業はユニットの運転を停止するしか術がない。浙江省はピーク発電企業に0.2元/kWhの夏季助成措置を取っているが、発電容量の半分近くを占める中小発電所にとっては焼け石に水である。

 その上、今や金が出しても石炭を買えない状況が出てきた。山西省のような石炭生産省でさえも石炭不足による電力危機が生起し、北方の一部省には石炭の送り出しを制限するケースも発生、このため南方の石炭入手難に拍車がかかっている。大型石炭企業は大型発電集団への石炭供給を優先し、そのため、中小発電企業はますます苦境に陥っている。長江デルタの某発電企業によると、同社のいくつかの発電所の石炭備蓄は3〜5日分に落ち、しかも、石炭の発熱量が低いため、実際に発電を継続できる日数はさらに短くなる。

 鉄道や海運による石炭輸送に対する障害も大きい。船舶や貨車が不足し、さらに、オリンピックの水上競技のため、秦皇島から南への航路が影響を受けている。輸送費も高騰しており、秦皇島から長江デルタ地区への海運費は、今年初めは1トン80元余りであったのが、すでに150元に上昇している。発電企業にとっては泣きっ面に蜂である。

問題解決の鍵は石炭供給の増加

 こうした問題を解決するため、発展改革委員会は電力価格引き上げとともに、発電用石炭に対する価格干渉措置を実施している。しかし、こうした措置は石炭供給をさらタイトにさせる可能性もあると業界筋は懸念している。

 中国の石炭産業の集中度は低く、神華と中煤の2大グループの生産量は全国生産量のわずか20%程度を占めるのみであり、そのため石炭価格の統制は難しく、1片の「価格制限令」では完全なコントロールを期し難い。中国の発電用石炭には、計画内石炭と計画外石炭の2種類があるが、後者は市場化されている。大型発電所の調達する石炭のうち、通常は計画内石炭と計画外石炭の割合はほぼ50%ずつになるが、石炭価格が暴騰する中で発電用石炭契約の履行率は極めて低くなっており、結局、発電企業は市場価格で石炭を買い入れるしかない。

 中国の石炭総生産量のうち、発電用は50%以上を占め、鉄鋼用が30%になる。政府が発電用石炭価格を制限しても、石炭企業は発電用石炭の供給を減らして、価格の高いコークス用原料炭への生産に転換することになり、そうなれば発電用石炭の供給は一層激化することになる。

 発展改革委員会の石炭価格干渉措置は、発電用石炭の出荷価格が6月19日時点の実際の決済価格を超えてはならないとするものであるが、「上に政策あれば下に対策あり」の言葉通り、一部石炭企業は依然値上げを続けており、売り手市場の石炭市場において発電所は価格に同意しなければ石炭を入手できなくなるため、結局、値上げを受け入れるしかない。発電所は、市場化された石炭価格と政府によって統制される売電価格の狭間で、コストを消化することも出来ず、運転停止やさらに破産の危機に直面している。

 業界筋は、発電用石炭価格の暴騰を抑えるとともに、大中型炭鉱の増産や、閉鎖した小型炭鉱の操業再開を求めているが、ここにもオリンピックが影を落としている。すなわち、オリンピックを前に小型炭鉱の整理が強化されている。また、ライセンスを有する小型炭鉱といえども生産量は日量1,000トン以下に過ぎない。小型炭鉱の生産の多くは発破作業によるものであるが、現在、ダイナマイトは厳重に規制されているため、これら小型炭鉱はほとんど操業停止状態にあり、そのため、石炭供給はますます需要に追いつかない状況が顕著になっているのである。

 (経済参考報 8月7日)